認定NPO法人子ども支援センターつなっぐ
認定NPO法人子ども支援センターつなっぐは、虐待、性暴力、いじめ等の被害にあった子どものためのワンストップセンターとして、子どもの権利擁護に係る支援を行っています。今回は、代表理事である田上さんにお話を伺いました。
田上代表理事
子ども支援センターつなっぐを始めたきっかけを教えてください。
多浪の末に京都大学農学部に進学しましたが、昔の同級生は既に社会に出て活躍する中、自分は何をしているのだろうと悶々とする日々を送っていました。「こんな自分でも社会の役に立てれば」と障害児を支援するボランティア活動に参加し、子どもたちからいろいろなことを教えてもらい、そこで進行性の疾患を持つ兄弟と出会いました。幼児期までは歩き回っていたのに、寝たきりとなった子どもたちを目にし、助けられるのは医者しかいないと考え、大学3年生の時に再受験して和歌山県立医大に入学し、小児神経科医を目指しました。小児神経科医として働く中で乳幼児の虐待症例を経験し、また、子ども虐待にも対応する中で、何の罪もない子どもが被害に遭うことに憤りを感じました。親からのクレームや児童相談所・警察との連携など多くの課題に直面しました。虐待の中でも特に性虐待に関しては、日本の現状は欧米から30年遅れています。米国には950カ所以上のChildren’s Advocacy Center(CAC)があり虐待に遭った子どもたちをワンストップで支援しています。日本でも同じようにワンストップで対応できる場所や仕組みが必要だ!という思いで団体を立ち上げました。
子どもの権利擁護に対する人々の意識は変わったと思いますか?
2015年に警察庁、検察庁、厚労省が虐待の被害にあった子どもから聞き取りを共同で行い、被害の負担の軽減をするよう通達がありました。このニュースを聞いた時に私は日本には将来的にCACの流れが来ることを確信しました。当時、病院内で将来的にCACの設立を目指そうと訴えましたが、周囲からは「性虐待は児童相談所の仕事だろう、病院は関係ない」と叱責されました。この10年間で状況は変化しています。被害者(子ども)の心身の回復は困難であること、MeToo運動やジャニーズ性加害問題など被害者の勇気ある行動がたくさんの人の心を揺さぶっています。講演では「欧米ではその対応は標準化され、聞き取り、診察、心のケアを、子どもに優しい環境でワンストップ対応するCACモデルが常識となっている」と話しています。聴衆の反応は「そんないい手があるんだ。目から鱗だ」と感嘆されます。社会は変わってきている。社会は変えることができる。そう思っています。
子ども支援センターつなっぐを立ち上げて良かったと思ったことは?
警察や検察、児童相談所、教育委員会、学校、役所、民間の支援団体などさまざまな機関や職種の皆様と同じ目標に向かって頑張れることにやりがいを感じます。専門的な支援をしている人だけでなく、皆さんとの出会いは私の大きな財産です。
FITからの寄付金はどのように使用されていますか?
性虐待という大きなトラウマを受けた子どものその後は悲惨です。PTSDや鬱などの精神疾患の罹患率は高く、アルコールや薬物の依存や自傷も多いです。さらには自殺率も高く、性虐待が魂の殺人といわれる所以です。つなっぐが係る子どもの中には、食事や買い物などもままならない状態の子どもがいます。つなっぐでは、そんな子どもに「寄り添い」「付き添い」「話を聞く」ことをしており、話を聞くところで子どもの負担を軽減できるのが付添犬活動です。大きなトラウマを負った子どもの心身の回復には、このような小さな一歩一歩が欠かせません。付添犬と一緒に行う活動をより拡大し、一人でも多く、そして一日も早く日本中の子どもに寄り添うことができるようにしていきたいと考えています。また、支援者はトラウマに配慮しながら関わっていく必要があり、人材育成も欠かせません。寄付金はこのような子どもたちの支援のために使用いたします。
付添犬ハッシュくん
今後の展望をお聞かせください。
これまで支援者として、医者として「もっと自分に力があれば」と悔しい思いをしたことがたくさんありました。治せない病気もありましたし、救えない命もありました。自分の非力を後悔しても仕方がないですが、今はいくらかの経験や知識を蓄え、いくばくかの研究費や貴重な寄付金を頂くことができています。今こそ自分の全力を尽くさないといけないと思っています。そうでないと「もっと自分に力があれば」と悔しい思いをした過去の自分に嘘をつくことになると思うからです。そして、その努力は医療や支援者、司法、NPOのためでなく、子どもたちのために尽くされるべきだと思います。支援いただきました皆様に感謝するとともに、これからも子どもたちのために尽力していきたいと思います。
私たちからはどのような支援ができるでしょうか?
虐待や性虐待を受けた子どもへの聞き取り、診察、心のケアをワンストップで対応するのがCACです。聞き取りは面接といわれ、専門面接者が誘導的でない方法で実施します。診察は子どもに慣れており、特別な研修を受けた医師が全身を診ます。全国的にも先進的な対応がなされている神奈川県において、昨年公表された「神奈川県性的虐待調査報告書」によると、系統的全身診察という専門的な診察を受けた割合は9%でした。トラウマを負った子どもには長期的なフォローが必要ですが、約70%は1年以内に支援が終結していると報告されています。このような診察をする医師や医療機関が見つけられない地域もあります。この現状を知ってもらいたい。たくさんの被害者が、被害を開示できない状況だと思われます。我々はどんな子どもも、その後の人生が幸せなものになるよう、当たり前の生活を送れるようにしていかなければいけません。皆さんには、現状を正しく知り、啓発活動をお願いしたいです。
系統的全身診察 司法面接室
認定NPO法人子ども支援センターつなっぐ
https://tsunagg.org/