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​​一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会(以下「CAN」)は、「家族だけで家族のケアを抱え込まなくてもいい社会作り」を目指し、ケアラーの居場所作りや個別相談、学校関係者や支援者に向けた人材育成、映像制作や講演活動などの啓発活動、国や行政への政策提言などを行っています。今回は、代表理事の持田恭子さんに話を伺いました。

持田さんのご経歴と、団体を始めたきっかけを教えてください

元々は、外資系証券会社で情報セキュリティの仕事を30年近くしていました。私自身、小学生の頃から、ダウン症のある兄の生活面の手助けや精神的に不安定だった母親の感情面のサポートをしてきたのですが、障害者の福祉サービスは改善されていくのに、家族を支えるサービスが無いことに17才の頃から不満でした。

30代の頃、インターネット関連の雑誌を読んでいたら「ダウン症の親の会」がホームページを開設したという記事がありました。私と似たような「妹」に会いたかったので早速問い合わせたら「親の会だから、兄弟姉妹の繋がりが無い。自分でホームページを作って呼びかけてみてはどうか」と促され、自作でホームページを作りました。すると全国から80人以上の「きょうだい」が集まり、やがてメーリングリストを介してそれぞれの想いを共有するようになったんです。

37歳の頃、父を看取り、40代で母の在宅介護と兄の生活面の世話をしながら仕事と介護を両立させ、経済面でも家族を支える日々が続いたので、きょうだいとの対話は10年ほど休止していました。その後、結婚をして伴侶を得たことで、ようやく自分はもうひとりで頑張らなくてもいいんだと実感することができました。

私はきょうだい児でもあると同時に、両親の感情面のサポートもしてきました。それに、家庭内暴力や心理的虐待も受けてきたことに大人になってから気付いたんです。そのため、自分のことを「きょうだい児」だけでは語りきれない、何とも言えない「物足りなさ」を感じていました。

2013年、初めて「ケアラー」という言葉をネット検索で知り、イギリスに赴いてヤングケアラー支援を見学してプログラムに参加しました。そこで自分は「ケアラーなんだ」と認識することができたんですね。ケアラーは「家族を無償でケアする人」という意味なので、きょうだい児も含まれています。「ケアラー」と言う言葉には多様な家族を包み込むイメージがあり、「ケアラーが自ら行動して繋がる」という想いを込めて、「ケアラーアクションネットワーク(通称CAN)」を立ち上げました。

きょうだいとケアラーの集い(交流会)

立ち上げにあたり、最も困難だったこと、また良かったことは何でしたか?

(。。しばらく沈黙)困難だったことは、ちょっと思い出せないですね(笑)。小学生の頃から、希死観念の強かった母が息子(わたしにとっては兄)と心中するのではないかと心配で、毎日学校から家に帰ると、二人とも生きていてほっとするという日々を送っていたので、自分が置かれている状況を「大変だ」と思う余裕がなかったんです。自分の感情を抑えて物事に対応しないと一日の生活を無事に終えることができなかったので、いまでもピンチになっても動じないし、うまくいかないことがあれば「どうしたらうまくいくのか」を先に考えて行動しています。だから困難なことがあっても困難だと意識していないのかもしれません。

また、家族をケアしながら生活していると、常に「明るく」していないと家族全体がマイナスの方向に気持ちが引っ張られてしまうので、「困難だと思わないこと」が癖になっているのかもしれません。落ち込んだ時は、兄がおどけたり笑わせたりしてくれていたので、わたしの元気の源になっていました。兄は障害者と言われていますが、彼が持っている「無償の愛」は絶大で、私は昔からその愛に助けられてきたと感じています。いまでも他者からみたら凄絶なケア経験でも無意識に明るい笑顔で語ってしまうんですね。

ほかにも、CANで接するケアラーの皆さんがいつも前向きな姿勢やプラスのエネルギーを持つ方達ばかりなので自然にポジティブな考え方になるのだと思います。前向きであることにより、物事も思った方向に進み、相乗効果で皆がポジティブになる、という感じです。こうした多くの皆さんと繋がることができたことは、この団体を立ち上げて良かったことの一つです。

昨今、特に「ヤングケアラー」という言葉を良く耳にするようになり、ケアラーの状況改善の為の政策議論が活発なように思いますが、実際に「ケアラー」を取り巻く状況に変化はあるのでしょうか?


「ヤングケアラー」という言葉が社会に認知されたことは、良かったと思うのですが、ヤングケアラーは、生活困窮家庭で暮らす子どもで、家族の介護をしているから学校に行けない「かわいそうな子ども」だというマイナスのイメージが社会に定着しつつあることに、私たちは警鐘を鳴らしています。ケアラーが置かれている状況は、その生活レベルに関わらず、どの家庭にも起きることで、介護だけに限定されたものではないからです。18歳を過ぎても家族のケアは継続することがありますし、子どもが家族のケアをしなくなれば問題が解決するというわけではありません。
私がこれまでに10代から60代までのケアラーと対話をしてきて思うのは、家族の困りごとは家族だけに解決を任される状況が昔も今もまだ変わっていないということです。そんな中でも、児童や福祉に関わる支援者の方々が少しずつ家族の声に耳を傾け、子どもの存在を気にするようになりました。それはとても良い傾向だと思います。

中高生ヤングケアラーのホームパーティ

FITの寄付金の使途について教えてください。

皆様から頂いた寄付金は、二つの使途に使わせて頂こうと考えています。一つ目は、CANの公式ホームページを改訂すること。もう一つは映像制作です。きょうだい児を主人公にした短編映画「陽菜のせかい」(YouTubeにて無料配信中)に続き、今回はオムニバス形式の映像制作を計画しています。複数のヤングケアラーに、自身のケア体験を書いてもらいました。それらを土台に私が脚本を書きました。ほかにもさまざまなコラボレーションを企画しているので楽しみにしていてください。

私たちとしてどんなことができますか

ヤングケアラーという言葉がイギリスから日本に紹介されて10年の節目を迎えるいま、みなさんが「もし自分が家族を支えることになったらどんな気持ちになるだろう」と自分事にして考えてもらいたいですね。そんなケアラーの生活を想像していただくために、わたしたちはオムニバス映像を創るので、無償エキストラとして参加することに興味のある方はぜひご連絡ください。

今後の展望を教えて下さい。

さまざまな年齢のケアラーの声をデータベース化したいと考えています。データベース化することで、ケアラーが欲しい情報が必要なタイミングで入手できるようになるし、ケアラーの声を一般市民の方々に分かりやすく伝えていくことができます。

最後にこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

家族を支えてきたケアラーは幼いころからずっと努力をし続けてきています。隠れていて見えない、または見せない彼らの努力に、さまざまな形で光をあてていきたいと思っています。多くのケアラーが何らかの孤独を抱えているので、皆さんが応援してくれたら、それはケアラーにとって生きる力になります。これからは「かわいそうだから救ってあげよう」という視点から「共に成長を目指そう」と言いう視点に変えて、ケアラーを応援して頂けたら嬉しいです。

[上段左]代表の持田さん、[その他右上から] FIT2023実行委員の大西、表、山崎

​​一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会
https://canjpn.jimdofree.com/

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