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NPO法人 ドングリの会

2016年FITチャリティ・ラン支援先団体である「NPO法人ドングリの会」は、『未来の子供たちにも豊かな住み良い地球を残そう』、そんな思いから1981年に活動を開始しました。関東・中部圏を中心に森林保全、森をつくる活動を行っています。今回は、東京支部代表の福井晶子さんにお話をお伺いしました。


左からデービッド・シェーファー(FIT2017共同実行委員長)、福井さん(NPO法人ドングリの会東京支部代表)、金凉佳(FIT2017広報チーム)

FIT: ドングリの会を始めたきっかけを教えてください。
福井: まずドングリの会は環境関係の団体なのですが、その中でも森林をキーワードにしております。活動の根幹は、単純に「自然環境をよくしよう」というよりは、「自然に関わりをもつこと」にあります。生き物としてあまりにも、自然と隔絶してしまうと人類というものはおかしくなっていくのではないかということが、人間が抱えている問題として挙げられると思っています。
個人的なきっかけは、コインロッカーベイビーのニュースを聞いたときの衝撃です。その時、どこか人間としての感覚がおかしくなっているのではという危機感が生まれました。最終的にたどり着いたのは、人間は自然と離れてはいけない、ということ。自然と人間を対照とする記事もありますけれど、基本的に日本では「自然の中に人間も含まれる」という考え方が一般的なので、自然と接点をもつというよりは、「自然の中の一部なんだ」という意識を、日常の中で最低限もつことが必要だと思ったことが、自然の世界に入っていくきっかけになりましたね。

FIT: どんぐりの会の活動内容について教えてください。
福井: 具体的には森林保全、森を育てるということを行っています。
少し長くなりますが、先ずは日本の森林についてご説明させてください。一般的には、「森」と一括りにされることが多いのですが、日本の場合は人工林と、誰も手を加えない放置森があって、どちらも健康な森ではありません。人工林は資材として使われる木を育てています。経済効果を考えて作られており、なるべく多くの収益を上げるのが目的です。事業で取り組む場合は、主にスギやヒノキのような針葉樹を育てます。戦後、国が建築材になるような木材を植えることを奨励し補助金を出したので、一気に植林を始める人が増え、針葉樹が増えたのですが、それが行き過ぎてしまい、日本の森林における針葉樹の割合が多くなってしまいました。それに加えて木が育ち、伐期といって収穫の時期になる頃には、海外から安価な木材が輸入されるようになりました。今では、国内で使用されている木材の約8割が輸入品です。一部の元気のいい林業を除いて、日本の木材は人件費他をかけて収穫しても高くて売れない、という状況になっています。それが、日本の人工林が抱える問題です。
一方、それ以外の放置林では、特に広葉樹が多いです。ある大きさに育てるまでに、針葉樹の材を育てるには30~40年かかるのに対して、広葉樹の材を育てるには70~80年かかります。つまり、針葉樹は子どもの世代に、広葉樹は孫の世代にならないと収穫できないのです。針葉樹と比べて、広葉樹は売るまで必要な時間が一世代分長いので、誰も広葉樹には手をつけようとせず、もともとあった広葉樹の森も荒れていきます。誰も手をつけないので、広葉樹の育成のノウハウも蓄積されません。事業として誰も広葉樹の森の育成に取り組まないため、私たちはボランティアさん達の手を借りながら、広葉樹を中心とした森づくりをしています。植えることも大事なのですが、荒れた森林の木を伐るなどして手を加えて整備しつつ育てていく活動を通して、日常的に自然と関わろうとしています。
やっていることは様々で、種を拾い、その種をまいて畑で苗を育成する人もいれば、育った苗木を山に植える人もいます。また、植えた苗木の周りの草刈をしたりしながら木を育てる人もいます。一つの森が育ち独り立ちするまで10年程かかりますので、その過程で子どもからお年寄りまで、年齢や体力に合わせて適材適所お力を借りながら森を育てています。

FIT: 1981年から活動されているとのことですが、育て上げた森をどの様に見守っているのですか。
福井: まず森を作るときには植えた苗木の周りの草を刈って、苗木に陽が当たるようにします。草は苗木よりも育成が早いため、その都度草を刈ったり、最近では鹿等による被害が深刻なので、獣害対策をしながら、手をかけていきます。そして苗木がある程度大きくなり、周りの草より大きくなれば、手を放してもひとりでに成長していく段階と言えます。あとはどんどん森林として大きくなっていきます。この様に独り立ちの段階まで育てば次の現場に移りますが、独り立ちした後も、2‐3年に一回手を入れる作業があります。具体的には「つる切り」という作業が定期的に必要となります。これは、木にからんだつる類が、樹冠の方で葉を繁茂もさせることで、木が大きくなってからでも、太陽の光が遮られ、枯れてしまうことを防ぐための作業です。最初の10年間に比べると作業は少ないのですが、ボランティアさんの手を借りながら、このような作業を通して森を守っています。

FIT: 関東だけではなく、中部地方でも活動されているとのことですが、団体としての規模、活動範囲を教えてください。
福井: 基本は関東圏と中部圏で活動しています。関東は各県で1‐2カ所で森を育てています。現在、何かしらの手をかけている森林が10カ所程あります。その他に、独り立ちして見守っているところが数カ所あります。面積では50~60ヘクタール位ですかね。
会員さんは500名弱ですが、実際に活動される方の中でコアとなって動いてくださる方は30名程です。その他に、100名ほどに年間数回参加いただいています。残りの方は会費という形を通してご支援いただいています。ここ10年間で、企業が社会貢献活動の一環として森づくりに参加することが増えました。これまでは寄付という形だったのですが、最近は加えて社員間の交流として参加する企業(社員交流)や、家族との時間を楽しむため、お休みの日にお子さんを連れて森づくりに関わっていただく企業(家族サービス)も増えています。関東では10社ほどの企業にサポートいただいております。
専門のスタッフや理事は関東で5名、中部も含めると10名位います。その他にはパートとして、週に2-3日出勤して頂く方や、現場ごとに一時的にお手伝い頂くパートさんもいます。現場が結構離れていますので現地で人を募ることが多いです。現在の日本では、自然を相手に生活していきたいと考える方はいても、なかなか生計が立ち行かないのが実情です。我々は出来上がったものを材として売っている訳ではないので、正規で雇用するのは難しいのです。そこで、例えば農業では繁期と閑期があるので、閑期で手が空いた方にお手伝い頂いています。また都内で勤務している方の中には、自然と関わりたいという方が増えているように思います。例えば、平日はラジオのディレクターをされている方が、土日にお手伝に来てくださることもあります。田舎暮らしを目指す若い方にはその様なニーズが結構あるようで、正規ではなくてもアルバイト感覚で参加頂いています。様々な参加方法の組み合わせで、労働力を拡大できれば良いと思います。
また、森を育てるには長い期間を要しますが、ボランティアの皆さんには先ず自分の好きな部分に関わっていただいて、それが繋がっていけば良いと思っています。山の斜面を登ったり下りたりというのが体力的に難しい方には、畑で苗を育てて頂くなど、各々ができる範囲で自然に関わって頂いています。

FIT: 現在団体として抱えている問題、今後の展望をお聞かせください。
福井: 課題としてはボランティア力をどうやって組織していくかということと、仕事として関わる専門のスタッフをどうやって増やしていくかということです。
やはりチェーンソーを使っての伐倒のように危険を伴う仕事もありますから、専門のスタッフが必要になります。そういった技術を持つ人をどうやって集めるかが一つの課題です。我々の作っている森は、「保全」が目的なので材を生み出すものではありません。公益と言えど、やはりスタッフも食べていかなければいけないので、持続可能な仕組みを作ることを検討しています。例えば広葉樹で作った木のものを売ったり、生活用品を増やしたり、経済とリンクすることによって森にお金が落ち、雇用が生まれます。そういった仕組みを考える必要があると思っています。
また、こういった状況を理解してもらうためには、まず森の状況を伝えないといけないと考えています。最終的には人間が自然と何らかの繋がりを持つということなので、人間が自然と関わる仕組みづくりが大きな課題ですね。
実際には、年々ボランティアの応募者が増えています。伐倒体験に親子でご参加いただくと、子どもはもちろんですが、お父さんの方が夢中になって楽しんでいます。やはり自然と関わるということは人間の原点であり、楽しいことです。そういう関わりで良いと思いますし、人間が欲している根源的なことだと思います。そして自然もそれを必要としています。昔は生きていく生活の糧を得るために人々は森林に入っていましたが、現代では生き物として根源的に欲するものを満たすために、自然と係わっていく仕組みはできると信じています。
またその仕組みをうまく管理すれば、労働力がボランティアとして加わりますし、スタッフはそこで幾ばくかのお金をいただいて生計を立てられることになります。人間と自然との関わりが、昔とは違うシステムで成り立つと思います。自然との関わりを持つことを、人生の中のどこかで実現できれば良いのです。リタイアされた方でもいいですし、お子さんを育てる間だけでもいいです。また、学校教育、企業ボランティアでも構いません。関わる人を増やす。これが大切だと思います。

FIT: 昨年度の寄付金での活動内容をお伺いできますでしょうか。
福井: いただいた寄付金は、主に新しい現場を作ることに使わせていただいております。群馬県桐生市の6ヘクタールの国有地に苗木を6,000本植えるための準備をしています。現在、畑で苗を育てているところです。そこは鹿が出る上に標高も高く風が強いので、環境としては大変厳しい場所であり、試行錯誤しながら森づくりを始めています。
先ほどもお話しました通り、一つの森を作るのに約10年かかりますので、時間はかかりますが、有効な活動に使わせて頂いています。

FIT: FITへのメッセージをお願いいたします。
福井: 森づくりというと中々ハードルが高いように思われがちですが、皆さんが想像するよりも小規模の資金でインパクトが出せます。金融業界の中で、何かしらのシステムをご検討頂けると良いかなと思います。例えば、社員が何かのアクションを起こすと、会社が森に寄付するような仕組みなどですね。経済が成り立つためには、採算性だけでは成り立たないものがあることを認識することが大事だと思います。その上で、人として、企業として何をすべきかを考えることができれば、良いのではないでしょうか。

FIT: 最後に福井さんにとってドングリの会とは何ですか。
福井: 会というより、自然環境と繋がりを持つ、ということは、生きていく上での一部です。自然と隔絶しては、生き物としては成り立たないと思っています。例えるのであれば、空気を吸うように木を植える。しなければいけないということではなく、そうゆうふうに人は創られているのだから、日々淡々と生きる結果、自然と繋がっている、それを目指したいですね。

FIT:貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。

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